結城浩のはてなブログ

ふと思いついたことをパタパタと書いてます。

人狼BBSとは

人狼BBSは、RandomNoteの作者、id:ninjinさんによる超人気Webゲーム。数人のユーザが1つの「村」に集まり、数日かけて人間の中に混じった人狼(じんろう)を探し出して退治するというゲームです。一言で言えばそうなるのですが、人狼を探すプロセスでユーザの間にディープな議論が展開されて、ちょっとしたミステリのような味わいになります。過去ログが多数公開されていますので、その雰囲気を感じ取ることができるでしょう。
いささかブラックなトーンを持っていますが、人間の本質を考えさせられるような深さを持っています。

人間を喰う人狼

人狼になるか人間になるかは、1日目のはじめにプログラムによってランダムに選ばれます。一応参加時に希望を出すことはできますが、基本的にはランダム。人狼同士は、CGIの機能を使って秘密に通信を行うことができます。つまり人狼同士は連絡を取り合うことができるのです。人間も連絡を取ることはできますがそれはすべて公の場での議論のみ。つまり人狼に内緒で何かを行うことはできません。誰が人狼で誰が人間なのか、人狼側には見えていますが、人間側にはわかりません。そこで人間側では「あいつが人狼なのではないか」と疑心暗鬼になるのです。
人狼チームは、毎晩一人の人間を「喰う」ことができます。喰われた人間は自分が人間であることが証明できますが、その後、ゲーム上で発言することはできません。墓場での「うめき」として書き込むことはできても、その声は生きている人々には届きません。

処刑しあう人間

では人間はどうやって人狼を退治するのでしょうか。それが投票による処刑です。毎晩、まだ生きている参加者全員で投票を行い、生きている参加者の中から処刑の対象を選ぶことになるのです。投票には、人間のふりをした人狼も参加します。人狼チームは議論を誘導して、何とか人狼ではなく人間が処刑されるようにはかります。人間側はその人狼の意図を見抜いて人狼を当てることに知恵を使います。
途中で参加継続できなくなったユーザのために、一日一回も発言がなかった参加者は突然死します。

能力者たち

人間は、何の能力もない村人と、人間でありながら人狼の味方をする狂人、それから特殊能力を備えた能力者、に三分されます。
能力者には占い師・霊能者・狩人・共有者がいます。
占い師は、一日一人だけ、参加者の正体を占って人狼/人間の区別を知ることができます。知ることができるのは占い師本人だけ。占い師はそれを公にすることもできますし、自分だけの秘密にすることもできます。
霊能者は、毎夜処刑された人また突然死した人の正体(人狼/人間の区別)を知ることができます。
狩人は、毎夜一人だけを「守る」ことができます。狩人に守られた人はたとえ人狼が襲っても、死ぬことはありません。狩人は、自分が守っている者の正体はわかりませんので、誤って人狼を守ってしまうこともありえます。狩人は自分を守れません。
共有者は、二人がペアになります。共有者は互いに相手の名前を知りますが連絡はとれません。共有者は必ず人間ですから、共有者同士は、連絡が取れなくても、議論を行うときに「この人は人間側として発言している」ということがわかるわけです。

狂人による惑乱

狂人は人間でありながら人狼の仲間です。占い師や霊能者による判定では「人間」と出てしまうのでやっかいな存在です。狂人と人狼は連絡を取り合うことができませんし、互いに誰かはわかりません。
狂人は人狼側に有利になるように議論や投票を行います。しかし、自分が狂人であることがばれてしまってはいけませんから、うまく煙幕をはりつつ、人狼を勝利へと導くのが目的です。

カミングアウトと偽能力者

能力者たちは自分が能力者であることを隠してもいいですし、オープンにしてもいいです。自分の能力をオープンにすることをカミングアウト(CO)と呼びます。
たとえば占い師がカミングアウトすること(占い師CO)によって、他の人はその人が占い師であり、他の人の正体を見破ってくれる存在であることを知ります。
ただし、占い師COしたとしても、他の人がそれを信じてくれるとは限りません。人狼や狂人が占い師のふりをしてCOし、人間をだまそうとしているかもしれないからです。実際、本物の占い師COと偽者の占い師COが重なり、参加者が偽者のほうを信じてしまう場合も多々起こるのです。占い師は一人しかいませんから、本物の占い師が、その晩の処刑対象になることもめずらしくありません。
占い師COだけではなく、霊能者CO、狩人CO、共有者COなどがあります。もちろん、村人CO、狂人CO、非常にまれには人狼COという場合もあります。

ロールプレイの醍醐味

村人、狂人、能力者、という役割とは別に、ゲーム上のキャラクタが用意されています。参加者はこのキャラクタに扮装し(ネット上のハンドルすら隠し)、ゲームに参加します。村長ヴァルター、神父ジムゾン、羊飼いカタリナ、老人モーリッツ…老若男女、職業もさまざまです。参加者はそれぞれの役になりきり、ロールプレイ(RP)を楽しみます。

勝敗の決定

勝敗はチーム単位で考えます。すなわち、このゲームは人狼チームと人間チームの戦いなのです。たとえ、占い師と狩人と共有者と霊能者を失おうとも、すべての人狼を倒せば、それは人間チームの勝ちです。逆に、能力者がいくら生き残っていても、人狼の数が人間の数よりも多くなったら人狼チーム(含む狂人)の勝ちになります。

最適戦略は?

最適戦略はおそらくありません。
ログを読んでみるとわかりますが、参加者の心は毎回ちぢに乱れます。疑惑が疑惑を生み、策略が策略と絡み合います。
正しいほうにリードしようとすると「誘導している」と疑われます。意思統一を図ると「裏で連携している」と疑われます。無難な発言を繰り返していると「煙幕を張っている」と疑われます。明確に説明しようとすると「自分が人狼だからそういえるのだろう」と疑われます。いろんなケースを説明すると「人狼側の視点にたちすぎ」と疑われます。みんなが間違った人に投票するのを阻止しようとすると「人狼を守ろうとするこいつもあやしい」と疑われます。
ともかく、どんな行動をしようとも(あるいは行動をとらなくても)、すべてが疑惑の種となるゲームなのです。

人間不信になる?

そんなゲームをしていたら人間不信になるのでしょうか?
それはちょっと違います。ゲームの最後、勝敗が決した後には、エピローグが待っています。そこではすべての人の正体が明かされ、死んだ人たちも墓場から戻ってきます。ハンドルも明かされます。驚きと楽しみの反省会です。みなが知力を尽くして戦った余韻を味わい、各人の健闘をたたえあいます。もう人狼も人間もいっしょになって、あのときの判断はどうした、このときのCOは驚きだった、などと語り合い、笑いあうひとときを過ごします。人間不信というよりも、人間の弱さ、だまされやすさ、気持ちのゆらぎに対する寛容が見られるように思います。
1つの村で行われる、数日間の熾烈な戦い。その記録はログとなって残り、新たな訪問者に目くるめく謎を提供する物語となるでしょう。